Forbes JAPAN「イメージの変化や健康志向、米国でテキーラの人気が上昇中」の解説  

Forbes JAPAN「イメージの変化や健康志向、米国でテキーラの人気が上昇中」という記事で、
テキーラが、いま注目されている要因やアメリカ市場の成長について、今後のテキーラマーケットの展望が掲載されました。

写真:テキーラジャーナル

今回は、テキーラジャーナルの視点でこの記事の解説をご紹介します。

解説・テキスト:松浦芳枝

読み始めてすぐに感じたのは、本記事の第一段落の意図するところへのある種の違和感である。テキーラの多様性は、米国市場を始めとする国際市場にあって、既知の事実であるからだ。さらに分からないのは「活気溢れる特別な場のための酒」の部分である。米国市場の圧倒的優位は、最近になって確立されたのではなく、既にテキーラが特別な場または状況に限定するお酒としての立ち位置を脱していると思われるのだ。
テキーラの潮流の変化は、この時期に始まったというよりは、既に始まっているプロセスの着実な強化として見る方が適切ではないだろうか。

テキーラが今注目されている、というよりは、既に有力な市場となっていた米国でさらに存在感を増してきていると判断できる客観的状況がある。
米国でのプレミアムテキーラへの志向の拡大は、既に2017年の輸入量の数値に見て取れる。

171,696,162,76ℓ 輸入総量
91.245,066.49ℓ 100%アガベ輸入量

既にその時点で100%アガベテキーラの優位がある。本記事の「プレミアムカテゴリーのこうした成長は、米国におけるテキーラの印象の変化を後押ししている。」という部分は今更感を禁じ得ない。

米国セレブリティの支持またはテキーラビジネスへの参入も新しいことではない。

健康志向との絡みで、テキーラの無糖への注目が書かれているが、蒸留酒はテキーラに限らず、カクテルにしなければ基本的には無糖か低糖であろう。むしろテキーラの場合は、アガビナと呼ばれるアガベのイヌリンの持つ特殊性が、今後科学的な分析によって解明されることが望まれており、またメキシコや欧米のメディアで時々取り上げられる骨粗鬆症の改善の可能性についても、今後の研究の進展が期待されるところであるが、この辺りについては本記事では言及がない。

100%アガベテキーラが主流になっているという事実は、味と香りを楽しむ消費者が増えてきていることで、それぞれの「物語性」感じる飲み方が好まれてきている証左であろう。ただ、勢いよくあおるのに適したテキーラというのは、そうした飲み方がテキーラの過去を想起すると普通であったとはいえ、そのような表現は不可解であり、また今や時代錯誤的な印象を払拭できない。

テキーラの今後の躍進に関する予測のシナリオだが、2020年にはテキーラの勢いも鈍っているという記述に対して、コロナ禍を生きる生産国の見解として、El Informador(2020年8月24日)紙がCRTの声明を取り上げて、「今年の1月から7月までで、218.9百万ℓと、214.5百万ℓの前年同期に比べて2%の増加に留まった。他方、輸出では、今年の同時期で、153.7百万ℓと、145.7百万ℓの前年同期に比べて5%の増加を記録した。」と報じていることが記憶に新しい。

他方、「主要国の多くは北半球に位置し、秋冬に差し掛かる事がコロナの状況の悪化に繋がる懸念も少なくない」(同記事に関する松浦解説)状況を勘案すると、今年のこれまでの好調路線にブレーキがかかる可能性もあり、米国市場であっても楽観的なシナリオの判断材料ばかりではないとは言えよう。

記事は情報源としてリズ・パケットやIWSRに依拠していて、比較的視座でテキーラの米国市場での消費拡大傾向を指摘している点が興味深いが、今脚光を浴びているというというよりは、グローバル化の進展の中、米国市場でのテキーラの定着が強化されたと見る方が実情に適っているように思われる。

<参考記事>
Forbes JAPAN「イメージの変化や健康志向、米国でテキーラの人気が上昇中」
Kate Dingwall
https://forbesjapan.com/articles/detail/36911