テキーラの製法

アガベの栽培からボトリング、輸入(マーケティング)までの全段階で、一貫して検査機関としてのCRTへの申請・許可が必要である。

栽培Planting and Growing of Agaves

アガベアスルから株分けされた子株(イフエロ)を採取し、健康で良質なものを選択した後に、切り口にカルシウムをつけて天日干しする。畑に植え替えてから収穫まで5~8年ほどかけて育てる。栽培の途中でアガベの生育状況と管理上の便宜に応じて、アガベの葉先等を剪定する作業(バルベオ)を行う場合もある。アガベの茎の部分(キオテ)は球形部(ピニャ)に蓄えられた栄養分(糖分)を奪ってしまうため、伸びて花が咲く前にカットする。この作業を「デスキオテ」と呼ぶ。また、近年、有機栽培への動きが盛んになっている。自社畑を所有するブランドと契約農家のアガベを購入するブランドがある。

アガベの子株(イフエロ)
アガベの子株(イフエロ)
バルベオを行った葉先
バルベオを行った葉先
有機栽培のアガベ畑
有機栽培のアガベ畑

収穫Harvesting / Jima

伝統的な職人(ヒマドール)により刃物がついた収穫専用の農具 (コア)を使用して、アガベアスルの葉や球茎部(ピニャ)の皮を削ぎ落とし蒸留所に運ぶ。栽培年数やピニャのサイズ・糖度、削ぎ落とす皮の厚さは蒸留所やブランドによって異なる。アガベの葉は、 そのまま畑に残し肥料として活用される。ヒマドールの仕事はチームで行われ、1日に決められた量を収穫したら終了する。作業能率上、まだ暑くない早朝から作業する場合が多い。成熟したアガベの表面にはマチュアサインといわれる茶色い斑点が見られる。ピニャを「メスカル」、中心部を「メソンテ」と呼ぶこともある。

収穫
コア
収穫
収穫
アガベのマチュアサイン
アガベのマチュアサイン
トラックで蒸留所へ
トラックで蒸留所へ

加熱(加水分解)Cooking(Hydrolysis)

大きなピニャは適当なサイズにカットされ、メタノールや油分を含み、苦みの元となるアガベの芯の部分(コゴジョ)は一般的には取り除かれる。石・煉瓦製の釜(マンポステリア)、またはステンレス製の圧力釜(アウトクラベ)に運ばれ、8~72時間蒸し上げてピニャに含まれるイヌリン(多糖類の一種)を糖化させる。地中に堀った穴で加熱した石の上にピニャを並べ、土やアガベの葉や搾汁後の繊維(バガス)などで蓋をして蒸し焼きにする伝統的な直火焼き製法や、加熱せずに酵素分解法を用いるブランドもある。

マンポステリア
マンポステリア
アガベの子株(イフエロ)
アウトクラベ
アガベの子株(イフエロ)
コゴジョ
加熱したピニャ
加熱したピニャ

搾汁Extraction(Milling / Pressing)

粉砕機(ローラーミル/シュレッダー)を用いて加水しながらアガベジュースを搾汁する。回転式の石臼(タオナ)を使う伝統的な方法や、革新的な搾汁機(フランケンシュタイン)の使用や、加熱前のピニャを粉砕しベルトコンベアに乗せて、イヌリンが溶ける温度のスチームで洗浄し、高圧水で分解する大型の機械(ディフューザー)を使用する蒸留所もある。タオナを使用している蒸留所は2017年の6ヶ所から現在10ヶ所以上に増加。その中でラバを使っているところは1ヶ所のみ。

フランケンシュタイン
フランケンシュタイン
タオナをひくラバ
タオナをひくラバ
ディフューザー
ディフューザー

調合Formulation

「100%アガベテキーラ」と「テキーラ」の2つのカテゴリーに分かれ、「テキーラ」の場合は、この段階でアガベジュース以外の副原料を加える。発酵前の液体は「モスト」と呼ばれ、酵母やブランドによっては発酵促進のための成分(尿素・マグネシウム・カリウム・ビタミンなど)が加えられる場合もある。酵母や添加した成分、各工程ごとの液体は蒸留所内のラボラトリーや国内外のオフィスなどでサンプルが保管されている。

調合
調合
ラボラトリー
ラボラトリー

発酵Fermentation

酵母の働きにより発酵した「モスト」からアルコールが生成される。テキーラの味は、酵母の種類や様々な発酵条件によって大きく左右される。酵母を人為的に加えない天然酵母での自然発酵や、発酵槽の温度を均一にするため、搾汁後のアガベの繊維(バガス)を入れるブランドもある。ステンレスもしくは木製、コンクリート製(現在3ヶ所のみ)の発酵槽を使用する。発酵槽に音楽を聴かせる蒸留所もある。発酵が終了した段階のアルコール度数6%前後の液体を「モスト・ムエルト」と呼ぶ。

発酵段階の注意事項

  1. ① 温度30~40
  2. ② pH 3.5~6
  3. ③ 酵母以外の微生物による汚染がないこと
ステンレス製の発酵槽
ステンレス製の発酵槽
木製の発酵槽
木製の発酵槽
コンクリート製の発酵槽
コンクリート製の発酵槽
バガス
バガス
バガスを入れた発酵槽
バガスを入れた発酵槽
発酵中のモスト
発酵中のモスト

蒸留Distillation

単式蒸留器(ステンレスまたは銅製)を使用する場合は、規定のアルコール度数(35~55%)を得るために2回以上の蒸留が必要となる。連続式蒸留器のみの使用や単式蒸留器との併用、アガベの繊維を入れて蒸留するブランドもある。前留液のヘッド(カベサ)と後留液のテール(コラ)は、人体に有害な成分を含み、不要な雑味を帯びているので原則として廃棄され、ハート(コラソン/ボディ)の部分が使用される。テールは再利用される場合もある。マスターディスティラーによって決められるヘッドとテールをカットする割合がテキーラの味の要となる。1回目の蒸留でアルコール度数20%前後のオルディナリオが抽出され、2回目の蒸留で55%前後のテキーラになる。3回蒸留するブランドもある。オルディナルオを一度フィルターにかけるブランドもある。

モスト、オルディナリオ、テキーラの違い
モスト、オルディナリオ、
テキーラの違い
銅製蒸留器
銅製蒸留器
ステンレス製蒸留器
ステンレス製蒸留器
連続式蒸留器
連続式蒸留器

熟成Maturation(Aging)

蒸留後に樽熟成せずにそのまま瓶詰めされるものと、オーク樽によって熟成させるものに分かれる。樽の種類や熟成期間、樽の内側を焦がす(チャーリング)または焼く(トースティング)度合い(ライト・ミディアム・ヘビー)、熟成時のアルコール度数、貯蔵庫の温度や湿度、樽の使用回数(新樽・中古樽)等の要素が各ブランドの味わい(個性)を作り出す。樽詰めの作業は必ずCRTの検査官の立ち合いの下で行われ、蓋の部分に所定の認定証(許可書)を貼る。その後ボトリング前の開封時までCRTの許可なく蓋を開けることはできない。原産地の気候の特徴から、熟成中に失われる原酒(エンジェルズシェア)の低減抑制対策として、地下の貯蔵庫、貯蔵庫内の定期的な噴霧、地面への流水などを行い、貯蔵庫の温度・湿度管理の効果を上げている蒸留所が増えてきている。

レポサドで使用可能な大容量樽(ピポン)
レポサドで使用可能な大容量樽
(ピポン)
樽の貯蔵庫
樽の貯蔵庫
CRTの認定証
CRTの認定証

ろ過Filtering

蒸留後の原酒や熟成後のテキーラ、または加水して度数を調整したテキーラをフィルターに通し、固形物などの不純物を取り除く。蒸留所によってフィルターの種類は様々で、冷却フィルターや活性炭フィルターを使う場合や、無濾過のブランドもある。最後に、規定内(1%以下)で甘味料や香料などの添加物が加えられる場合もある。なお、加水には、メキシコ公式規格に定める衛生基準を満たした水質の精製水のみ使用可能。

一般的なフィルター
一般的なフィルター
カーボンフィルター
カーボンフィルター

ボトリングBottling

蒸留後の原酒や熟成後のテキーラ、または加水して度数を調整したテキーラをフィルターに通し、固形物などの不純物を取り除く。蒸留所によってフィルターの種類は様々で、冷却フィルターや活性炭フィルターを使う場合や、無濾過のブランドもある。最後に、規定内(1%以下)で甘味料や香料などの添加物が加えられる場合もある。なお、加水には、メキシコ公式規格に定める衛生基準を満たした水質の精製水のみ使用可能。

ボトリング前にテキーラでボトルを洗う
ボトリング前にテキーラで
ボトルを洗う
ボトリング
ボトリング
ラベル貼り
ラベル貼り

リサイクルHarvesting / Jima

蒸留後の原酒や熟成後のテキーラ、または加水して度数を調整したテキーラをフィルターに通し、固形物などの不純物を取り除く。蒸留所によってフィルターの種類は様々で、冷却フィルターや活性炭フィルターを使う場合や、無濾過のブランドもある。最後に、規定内(1%以下)で甘味料や香料などの添加物が加えられる場合もある。なお、加水には、メキシコ公式規格に定める衛生基準を満たした水質の精製水のみ使用可能。

リサイクル商品
リサイクル商品
バガスを肥料にリサイクル
バガスを肥料にリサイクル
バガスを肥料にリサイクル
バガスを肥料にリサイクル
廃水リサイクル施設
廃水リサイクル施設

アガベアスルとは?

200種類以上ある多肉植物の一種アガベ[別名マゲイ、リュウゼツラン(竜舌蘭)、メトルなど]はメキシコを中心に米国南西部から中米にかけて自生・栽培されており、そのうちの75%はメキシコに存在する。
テキーラの原材料となるアガベアスルの葉の表面は厚い蝋で水分が保護され、灰色味を帯びた青緑色をしている。

アガベアスル
学名:Agave tequilana Weber variedad azul
英語名:Agave tequilana Weber blue variety

特徴

  1. イヌリン(多糖類の一種)を豊富に含む
  2. 一般的に灌漑(かんがい)は不要
  3. 1ヘクタールあたり2,800〜3,000株が栽培可能
  4. アルコール度数55%の100%アガベテキーラ1ℓを造るのに10kg前後のピニャが必要※搾汁方法によって違いがある。
  5. 成熟サイクルは平均5〜8年※成熟が近づくと雌雄の別が明らかになり、雌株アガベはピニャの頂点から「キオテ」と呼ばれる茎が伸びてきて黄色い小さな花をつける。キオテは5m以上に達することもある。

栽培に適した環境要素

  1. 気温5~28℃※平均気温は20℃前後が理想的である。
  2. 年間降水量600~1,800mm
  3. 中程度のきめの粘土質で水捌けの良い土壌
  4. 土壌のpH6.0~8.0
  5. 海抜600~2,500m

イフエロの移植から収穫まで、アガベアスルの総株数はデータ管理をするCRTに報告義務がある。

栽培方法

  • 3~5年目のアガベアスルの母株から株分けされた1.5kgから3.0kgの重量がある子株(イフエロ)を収穫する。
  • 収穫には金属製のテコ棒を使用し、母株と繋がっている臍帯を切って取り出す。
  • 畑に移植する前に、少なくとも10日間は太陽光に当てて保管することが望ましい。

※伝統的な種子栽培や最近では微細繁殖法もあるが、テキーラ産業としてはイフエロによる株分け栽培が通常である。

※一般的に、アガベの母株からは移植後年に1~2つ程度のイフエロが出てくる。

※1つのアガベから平均7~8株のイフエロが生える。

※3年目の最初に収穫される(ファーストカット)イフエロが良質とされている。

イフエロの移植方法

  • 雨季が始まる前の4月から5月に行う必要がある。
  • 栽培は短めの鍬を使って手作業で行う。
  • イフエロのピニャの3/4が土に隠れるように植えて、風を受けて倒れないようにその周囲の土を踏み固める。
母株
母株

代表的なアガベのテロワール

アガベの子株(イフエロ)

バジェス/ローランド

火山灰質の水捌けが良い土壌。乾燥した暖かい気候のため、繊維質が多く、ハーバルなトーンでミネラル感のある味わいのアガベができる。

ロスアルトス/ハイランド

鉄分を豊富に含む赤土の土壌。清涼で日中の寒暖の差が激しい気候のため、水分は多め、繊維質は少なめで、フルーティーな味わいのアガベができる。

シングルエステートのブランド以外、テキーラにテロワールはありません。

同じ蒸留所で造られるブランドも、それぞれ使用するアガベアスルの産地や栽培年数・糖度、発酵など製造工程や樽の種類・熟成期間などが異なり、その違いがテキーラの味わいに複合的に関わります。
蒸留所の所在地=テキーラのテロワール(味わいの特徴)ではありません。