ハリスコは、ユカタン半島諸州、チアパス、カンペチェなどと共に、メキシコ国内で森林消失が深刻な州の一つに数えられており、年平均1万6千ヘクタール弱の森林が失われている現状がある。

州内の5374カ所の区画地を対象にして分析を行った結果、危機的な状況は、州内12カ所の地域の中で、Centro、Altos Norte、Altos Sur及びSur の地域で顕著であることが判明している。
森林区域の開発は、牧畜、アガベやアボカド栽培目的で牧草地または商業用地としての利用が目的であり、森林喪失の主要因は牧畜、アガベやアボカド栽培であると考えられている。
また、グアダラハラ大都市圏住民にとっての「肺」である「春の森」森林(La Primavera:戦略的自然保護区)は、地域の生態学的バランス、帯水層の再充填と地域特有の動植物の生息地として極めて重要である。
本年(2021年)4月に大規模火災が発生し重大な事態になったが、原因の中に、現地の土地利用の規則を知らない集団農場の農民によるアガベの違法栽培があり、同地区が抱える深刻な状況が露呈した。
こうした状況に対して、CRT(テキーラ規制委員会)、CNIT(全国テキーラ産業会議所)及び ハリスコ州政府とりわけハリスコ州環境領土開発省(Semadet)は、森林消失の激化への強い危機感を既に共有していた。
2019年にマドリッドで開催された「COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)25」の枠組みの中から始まったイニシャティブは、今年になって森林破壊根絶に向けた施策の第一歩を踏み出すことになった。
こうして、州内のテキーラ業界が、森林破壊ゼロでの最初のアルコール飲料の製造を目指す決定を下したことで、2021年が、ハリスコ州でテキーラにとって決定的な年となったのである。
具体的には、「環境に責任を持つアガべ(Agave Responsable Ambiental:ARA)」という新たな認証(certificación)の制定を通じて、森林破壊ゼロ、アガベ栽培による環境インパクトの軽減及び環境への痕跡の改善を消費者に保証するという制度である。
その中で、ハリスコ州政府のSemadetが中心となり地理情報を用いて策定したアガベ栽培の適格性地図の中で、どの農地でアガベ栽培が可能であるかが明示されるので、アガベ栽培に起因する森林破壊に歯止めをかけることができるとしている。
換言すれば、ARA認証は、アガベ−テキーラの生産チェーンが森林破壊ゼロで活動していることを保証する仕組みであり、ハリスコ州は2021年5月4日から実施している。ARA認証マークは、メキシコ工業所有権庁(IMPI)で、ハリスコ州政府CRTの共有名義の下で登録された。
ハリスコ州内には約300万ヘクタールのアガベ栽培が可能な区域があるが、ARA認証制度の下では、2016年以降開墾された森林植生地は栽培可能地域から除外される。
ハリスコ州政府の狙いは、2027年までに、テキーラ製造に向けられるアガベアスルの供給が、森林破壊の原因となっていないと確認することである。つまり、2021年以降、森林破壊の起きた地域での新たなアガベ栽培は、CRTの登録が不可能となることを意味する。
事態の進展を受けて、本年6月、グアナフアト州(7つの指定自治体であるAbasolo, Cd. Manuel Doblado, Cuerámaro, Huanímaro, Pénjamo, Purísima del Rincón及びRomita)がARA認証制度に参加した。
同州は、ハリスコに次ぐアガベアスルの主要産地として、1億2250万株が栽培されており、テキーラの原産地呼称(DOT)による保護地域内で栽培されるアガベ総量の14.2%を産出している。
こうしたグアナフアトの重要性に鑑み、CRTはペンハモに地方事務所の開設を決定した(7月末の時点で求人を行なっており、業務の開始の有無についてはまだ確認が取れていない)。
ARA認証の中核となる地図の詳細はまだ明らかにされていないので、ハリスコ、グアナフアト両州政府、CRTなど関係機関の発表と新聞報道を引き続き注視しなければならない。
また原産地呼称地域に含まれるナヤリ、タマウリパス及びミチョアカンが、どのタイミングでこの動きに追随するかについても情報収集が必要であろう。
EL ECONOMISTA
寄稿:松浦芳枝